私もこの世界に入る前、つまり数年前まで知りませんでしたのでエラそうなことは言えませんが、世間では「印鑑」という言葉の使い方においていつの頃からか「誤用」が生じて、今やその誤用が一般的になってしまっています。

印鑑が欠けてしまいました」(印鑑は欠けません)、「印鑑を彫ってください」(印鑑は彫れません)、「印鑑、大安売り!」(印鑑は一般的に販売するものではありません)…これらは全て「印鑑」という言葉を間違って使っています。「ハンコが欠けてしまいました」、「ハンコを彫ってください」、「印章、大安売り!」…これが本来の正しい使い方の例です。

広辞苑には印鑑の本来の意味として、「印鑑=あらかじめ市町村長や銀行その他取引先などに提出しておく特定の印影。印の真偽鑑定に用いる。」と載っています。つまり、印鑑とは紙に押された「印影」を指すのです。(「」という字はまさに「(かがみ)」のこと。「鑑札」という言葉からもうかがえるように、「照らし合わせて真正であることを保証するもの」という意味があります。) これを分かりやすく写真を用いた図で示してみます。

印章と印鑑の違い

【写真】印章と印鑑の違い

おわかりでしょうか。しかし同時にもう一つの問題があります。今や日本中の印章店のサイトやタウンページ広告等をみても、「各種印鑑取り扱い」「印鑑販売」「個人印鑑・法人印鑑」など、「印鑑」という言葉が語の本来の意味から外れ「誤用」されて使われている事例が沢山あります。プロである印章店がどうして・・・? これにはどんな事情があるのでしょうか?

実は全国の印章店の多くが、誤用を誤用と知りながら、あえて使っているのです。やむを得ず使っている、といった方が良いかもしれません。そうせざるを得ないくらい「印鑑」という言葉が本来の「印影」という意味を離れて、物質としての「ハンコ(印章)」そのものを指す言葉に変化して、世間一般で定着してしまったからです。今では広辞苑でさえ、「印鑑=印。印章。判。」という近年の新たな定義づけも掲載しております。

かく言う弊店も、誤用を承知でホームページその他で、「印鑑」を「印章」の意味で使っております。私はこれはある程度やむを得ないことだと考えております。特にインターネットが発達した今日、GoogleやYahoo!で「印鑑+地名」で検索した結果から、店の存在を知って頂き、ご来店下さる方が結構いらっしゃるからです。他店も事情は同じようなものでしょう。さすがに「印鑑店」「印鑑屋」と自ら名乗るハンコ屋には今のところお目にかかったことはありませんが、あと5年くらいすると出てくるかも知れませんね(笑)

言葉は次第に移り変わるもの。誤用が広まってしまったのはある意味残念ですが、もっと早めに誤用を誤用として周知してもらう手だてを講じるべきであったと思います。今となっては、完全に定着してしまったのですから、仕方がないところでしょう。

お客さま)「ごめんください、印鑑欲しいんですけど」

店主)「済みません。うちはあいにく印鑑は売っておりません。ハンコならございますが…」 こんなこと一々言っていたら、偏屈扱いされて、商売あがったりですよね(笑)