遅まきながら山崎豊子原作、渡辺謙主演・映画「沈まぬ太陽」を観ました。といっても、僕は人混みがあまり好きではないので映画館ではなく、いつものようにDVDで。

真ん中に休憩時間を挟む長い映画でしたが、内容が空疎で全く期待はずれでした。人物設定が「善人」「悪人」の単純な二元論である上に、ストーリー展開に観るものを納得させる「必然性」が無く、見終わった後に違和感だけが残るものでした。

実話をかなり織り込んで作られているという割には、日航ジャンボ墜落事故を単純な「労使対立」の問題にすり替えてしまっているのが何と言ってもよろしくありません。JR福知山線の脱線事故でもそうでしたが、このような問題のすり替えでは被害者の遺族はたまったものではありません。仲間割れなどせず労使が協調し、会社一丸となって被害者家族への賠償や心のケアに当たるのがスジです。この映画を観て喜ぶのは今も僅かにのこる先鋭的な労働運動家だけではないでしょうか。(しかも芸術的な意味ではなくて政治的な意味で。)

ナショナルフラッグとしての会社と業務に誇りをもち、墜落事故の遺族に限りない哀悼の念を抱く主人公恩知(渡辺謙)や国見社長(石坂浩二)。それに対して、企業の利益や自らの保身や出世だけを追求する行天(三浦友和)や八馬(西村雅彦)他、大多数の人々。企業の論理vs個人の倫理、まあよくある話です。最後は行天の裏金工作が露見し東京地検が出てくるのですが、このあたり石坂浩二が出ているせいもあり、「勧善懲悪」の水戸黄門を観ているのかと錯覚してしまいました。

恩知や国見がある意味で魅力的で立派な人物であることは誰も異存はないでしょう。でも彼らが何故立派になったのか、どのような経緯や経験でその様な心境・行動に至ったのか、作品からは全く見えてきません。これでは生まれつき「善人」だからとしか言いようがありません。ここが一番不満に思います。対する「悪人」たちも絵に描いたような(収賄・酒・女遊び・豪華なクルージング…)俗物たちなのですが、人間はそんな二元論で割り切れる単純なものではないでしょう。読んでいないので原作については何とも言えませんが、映画については完全な「駄作」と言えると感じました。

命の尊さとか家族の大切さとかテーマは大変良いのですが、その背後に「労働者=善、資本家=悪」というありきたりで、しかし大変政治的な偏見を重ねてしまっているのが、何とも残念でした。